Column 6 荻窪のおみせ
「リメイク」にファッションの原点を見る― 荻窪テーラー
お直しも職人さんの手縫い
「洋服の直しは一から洋服を作るよりも難しいんですよ」荻窪テーラーの女主人はおっしゃる。
荻窪テーラーさんに初めてお邪魔したのは、ズボンの裾がほつれた時だった。ミシンでまつられた裾は、一度ほつれるとぐるりと全部一気にほつれてしまう。そうなると素人ではお手上げだ。
裾のほつれたズボンを荻窪テーラーに持ち込んだところ、裾直しを手縫いで仕上げてくれた。そうすると、何かに引っ掛けて裾が少しほつれたとしても、全部ばーっとほつれてしまうことはないという。手縫いだというのに、表からは縫い目が全くわからないのがみごとだ。職人さんの長年の手の感覚というのはすばらしい。
人が洋服を着るのか。それとも…
ご主人にさらにお話を伺うと、例えばジャケットの肩幅を直す場合、ウエストから全部直しをかけて調和を取るのだという。確かにウエストと背中、肩はつながっている。
肩だけを直すとバランスが崩れ、見た目にはわからなくても、どこかで身体が無理をすることになるかもしれない。だから、身体に合った洋服というのは最高の贅沢であり、オシャレの基本なのだ。
なぜなら洋服はそれを着る人のためのものであるから。でも現実には着る人のほうが洋服に合わせていることが多い。
ご主人は、日頃から、スーパーや駅など人の集まるところに行くと、人の洋服がつい気になってしまうそうだ。これもご主人の「洋服」というものに対する愛情とこだわりの表れなのだろう。
そんなご主人に、テレビを見てオシャレだと思う有名人は?ときいたところ、元首相の麻生太郎氏の名前を挙げた。ご主人によれば、麻生氏の洋服は全てオーダーメイドなのだという。テレビで見ただけで、オーダーメイドなのか既製服なのかわかるというからさすが。
「職人」というものが育ちにくい現代社会
荻窪テーラーは、現在20人ほどの職人に、職人の得意分野に合わせて仕事を依頼している。職人さんはすべて70歳以上の超ベテランだ。
職人のクラフトマンシップに支えられて、一人ひとりの身体つきに合った、丁寧な服づくりがここ荻窪テーラーではなされている。
しかし、残念なことに、こうした手縫いや裁断をする職人さんたちの後継者が全く育っていないのだという。仕立屋、裁断師などの職人さんは徒弟制度の世界で、師匠や先輩などの技を目で盗みながら、何年もかけて一人前になるということだ。
既製服が簡単に買える今、オーダーメイドへの需要は減り、ましてや時間をかけて技術を学んでいったのでは、とてもじゃないけど収入にならず、プロの職人が育たない。
確かにお金を出すと洋服は簡単に買えるし、どんどん洋服は安くなってきている。
しかし、簡単に買えて、愛着もそこそこ、そして飽きたら使い捨てにする、というもちょっと寂しい気がする。
※郵送による洋服のオーダーは受けておらず、必ず着る人がお店に足を運んでほしいとのこと。
荻窪テーラー
http://www.ogikubo-tailor.co.jp/
住所:東京都杉並区上荻1-4-1
電話:03-3391-1234
FAX:03-3391-4566
営業時間:10:30-19:00
定休日:木曜日