特集コラム

Column 4 荻窪とメディア

2012/02/08

フォーク酒場「落陽」をNHKが放送

人生を歌にのせて

2012年2月3日にNHK総合で、フォーク酒場「落陽」荻窪店に焦点を当てた番組、特報首都圏「熟年人生を歌にのせて」が放送された。 番組で取り上げられていた演奏者は40、50代で、離婚した女性やリストラされた男性、2億円の借金を抱えていた男性など、ほとんどは熟年の男女。

歌っている歌詞の内容はポジティヴなのだが、情動が深く刻まれた歌声とメロディに、番組を観ていて胸を締め付けられる思いがした。しかしそれこそがフォークソングの重要なひとつの要素で、テレビ越しでも音楽のリアリティが伝わってくる内容だった。

純粋な想いを発信できる場「落陽」

演奏者の方々は「自分の中で歌が育っていって、自分だけの歌になる」「若い頃の気持ちに戻って自分を見つめ直したい」と言い、「歌っているのは自分応援歌です」と言う方もいた。そういった気持ちで歌われる曲の数々は私欲の一切がない、邪気がそぎ落とされた純粋な歌の姿だ。

自分を歌うことは、ともすれば自己心酔的なものになってしまうこともあるが、落陽というフォーク酒場は自分の歌をみんなの声として発信できる場としてある。その様子が可視化できた。演奏者にとって音楽を演奏できる場があることはとても重要で、それなくして日本の音楽文化はこれまで育つことはなかったという歴史がある。そういう意味でも、落陽はなくてはならない場なのだと思えた。

熟年のソウル

誰もが自由にフォークソングを歌える落陽には、かつて日本でプロテストソングの側面もあったフォークソングが、社会や時代にNOを突き付けるものとしてではなく、演奏者の内面を赤裸々なまでに映し出す歌があった。

今、熟年の男女がフォークソングを歌うことは、心の痛みを抱えながらも過剰に悲観的にならず、一歩前へ踏み出す勇気なのだと思う。落陽はその決意に似た勇気を正面から受け入れる場としてもあり、熟年のフォークソングは文字通りの意味でソウルミュージックに成り得ている。それを偽りなく、番組は映し出していた。

フォーク酒場 落陽
http://rakuyo.main.jp/
住所:杉並区上荻1-7-3
TEL:03-5397-0371
営業時間:18:00-24:00
定休日:日曜日
文・取材 / 田中喬史

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