Column 9 荻窪グルメ
ここで1杯のコーヒーを飲むことが極上の時間となる― 荻窪 邪宗門
邪宗門という喫茶店は、全国に7店舗ある。東京都内は桜ヶ丘と荻窪と世田谷。そして小田原(神奈川県)、下田(静岡県) 、石打(新潟県)、高岡(富山県)と、地方にも点在している。国立にも邪宗門はあったが、2008年12月に惜しまれつつ閉店したという。
ある日、なにげなく友人に邪宗門の話をすると、なんと彼女は国立邪宗門に行ったことがあるという。しかもわざわざ邪宗門に行くために遠くから足を運んだとのことだ。
「マスターがとにかくおもしろい人だった」と語る友人。ホームページには、「邪宗門はチェーン店ではありません。ある趣味を持った仲間たちです」とある。その「ある趣味」がいったい何であるのかは不明だが、点在している7店舗も、人をひきつけてやまない何か「おもしろいもの」があるに違いない。
私は荻窪のお店を訪ねてみた。
荻窪駅北口アーケイド商店街の中にそこだけ異彩を放っている空間があった。異彩は放っているが違和感はない。長い時の流れを感じる外観だ。
一見スイスの山小屋風に見えないこともない。私は同店が、角田光代の「ドラママチ」という小説に登場したのを思い出した。「ドラママチ」には中央線沿線のさまざまな喫茶店が登場する。
荻窪邪宗門は、小さい頃は、よそゆきを着て日曜日に家族と通う少しセレブな店だったという主人公の幼い頃の記憶が描かれていた。
そんなものか―と思いつつ、荻窪邪宗門のドアを開く。
親戚のおうちに遊びに行って、2階に上がらせてもらったような…そんな感じであろうか。いやいや、うちにはこんな親戚はいないはず。
点在するギリシャ風の彫刻、古い柱時計、日本人画家の西洋絵画、あちこちに吊るされたアンティークランプ、ソファに無造作に積まれた本…雑然としているが、不思議と趣味のよさが感じられ、居心地がよい。
奥のソファの席に座ると、上品な老婦人が注文を取りに来る。ウインナコーヒー(450円) とホットケーキ(280円) をお願いする。ソファに深く身体を沈め、置いてあったマンガを読みふけりながらコーヒーとホットケーキをいただいていると、いつしか本当に自分が親戚の家で夏休みを過ごしているような気持ちになる。わかった。ここに来れば、自分の書斎が持てるんだ。
くつろぎながら、人目を気にせず、思い思いの時を過ごし、そんな時間が自分の文化になっていく。喫茶店って、コーヒーを飲むだけの場所じゃないんだなあ。
それにしてもある趣味を持った仲間たちって、皆さん、どういう感じなんだろう。他の6つの邪宗門も巡ってみたくなった。
荻窪 邪宗門
http://www.jashumon.com/ogikubo/index.htm
住所:東京都杉並区上荻1-6-11
電話:03-3398-6206
営業時間:15:30位-21:00
定休日:不定休